妊娠が分かった日から、夜勤を外す条件はそろっています。ただしその条件は、妊娠週数でも体調でもありません。あなたが請求したかどうかです。
労働基準法66条3項は、使用者は妊産婦が請求した場合に深夜業をさせてはならないと定めています。裏返すと、あなたが言わない限り、この規定は動きません。
本記事で扱うのは、労働法上の権利と、職場での手続きだけです。妊娠の経過や体調の判断は書きません。
夜勤を外せるかどうかは、妊娠週数ではなく請求で決まる
根拠になる条文は1つで、長さも1文しかありません。全文を引きます。
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
(労働基準法66条3項。2026年9月5日にe-Gov法令APIで原文を取得して確認)
要件は2つしかありません。妊産婦であることと、請求したことです。診断書の提出も、理由の説明も、勤務先の承認も、この条文の要件には入っていません。
「妊娠◯週を過ぎたら」という区切りも条文にはありません。妊娠が分かった時点で請求すれば、その時点から制限がかかります。夜勤を外す起点は、体調が悪くなった日ではなく、あなたが請求した日です。

守らなかった使用者には罰則がある
66条3項は、努力目標ではありません。労働基準法119条1号は「第六十四条の三から第六十七条まで」の規定に違反した者を挙げており、同条の柱書は「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する」と定めています(2026年9月5日に原文を取得して確認)。
請求したのに夜勤に入れられた場合、それは職場との相性の問題ではなく、罰則のある規定の話になります。体調を理由にお願いする場合とは、話の土俵が違います。
上位の解説記事が条文で答えていない
編集部は2026年9月5日に、「看護師 夜勤 妊婦」の検索上位10件から見出しを抽出し、のべ218件を数えました。このうち条番号を含む見出しは0件で、法令の名前が出ている見出しも5件だけでした。
最上位の記事は、続けるかどうかは体調と病院の規定によって異なる、という答えを見出しに置いています。条文の側から見れば、外せるかどうかを決めているのは体調でも病院の規定でもなく、請求という行為です。
条文が「妊産婦」と呼ぶのは、妊娠中の人と産後1年たっていない人
66条3項の「妊産婦」が誰を指すのかは、66条には書かれていません。定義は少し前の64条の3第1項の括弧書きに置かれています。
使用者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない。
(労働基準法64条の3第1項。2026年9月5日に原文を取得して確認)
この括弧書きは、以降の条文にそのまま効きます。**66条3項の請求は、出産したあとも、産後1年になるまで使えます。**育児休業から復帰した時期が産後1年より前なら、復帰直後の勤務表にも同じ条文が使えることになります。
産後8週間だけは、請求がなくても働かせられない
同じ並びの中に、請求を要件としない規定が1つあります。65条2項です。
使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
(労働基準法65条2項。2026年9月5日に原文を取得して確認)
前段は禁止で、請求は出てきません。請求が出てくるのは、産後6週間を過ぎて本人が早く戻りたいときのただし書きのほうです。整理すると次のようになります。
| 規定 | 内容 | あなたの請求が要るか |
|---|---|---|
| 労基法65条1項 | 出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)以降の休業 | 要る |
| 労基法65条2項(前段) | 産後8週間の就業禁止 | 要らない |
| 労基法65条2項(ただし書き) | 産後6週間経過後、医師が支障なしと認めた業務への就業 | 要る |
| 労基法65条3項 | 他の軽易な業務への転換 | 要る |
| 労基法66条1項 | 変形労働時間制でも法定労働時間を超えて働かせないこと | 要る |
| 労基法66条2項 | 時間外労働・休日労働をさせないこと | 要る |
| 労基法66条3項 | 深夜業をさせないこと | 要る |
| 労基法64条の3第1項 | 重量物・有害ガス等の業務に就かせないこと | 要らない |
**請求が要らないのは、産後8週間の就業禁止と、危険有害業務の就業制限の2つだけです。**残りは、あなたが口を開かなければ何も起きません。妊娠を職場に伝えた時点で自動的に夜勤が外れる、という仕組みにはなっていません。
66条は、請求できるものを3つ並べている
夜勤を外しても、勤務の負担が全部消えるわけではありません。66条は3つの項でそれぞれ別のものを扱っており、3つは別々に請求できます。
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。
(労働基準法66条1項)
1項が外しているのは、変形労働時間制です。交代制の勤務表は、1か月単位などの変形労働時間制を使って組まれていることがあります。この請求をすると、そのやりくりを使って1日8時間・1週40時間を超えさせることができなくなります。
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
(労働基準法66条2項。1項とともに2026年9月5日に原文を取得して確認)
2項は残業と休日出勤です。夜勤を外したあとに日勤の残業だけが増える、という形になったときに効きます。
**夜勤だけを外す請求も、3つまとめての請求もできます。**どこまで請求するかは、あなたが決める部分です。なお変形労働時間制そのものの仕組みは、本記事では扱いません。
請求したことを理由に不利益に扱うことは、別の法律が禁じている
「言ったら評価に響くのではないか」という不安に答えるのは、労働基準法ではありません。男女雇用機会均等法のほうです。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項。2026年9月5日に原文を取得して確認)
問題は「厚生労働省令で定めるもの」の中身です。ここを開かないと、夜勤の請求がこの禁止の対象に入るのかが分かりません。編集部は委任先の省令本文まで降りました。
労働基準法第六十六条第一項の規定による請求をし、(中略)又は同法第六十六条第三項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかつたこと。
(同法施行規則〔昭和61年労働省令第2号〕2条の2第7号。抜粋。2026年9月5日に原文を取得して確認)
**夜勤を外す請求をしたことが、条文に名指しで書かれています。**同じ2条の2の6号には、65条3項の軽易業務への転換の請求も並んでいます。請求それ自体を理由にした解雇や不利益な取扱いは、9条3項が禁じる対象です。
さらに9条4項は、妊娠中および出産後1年を経過しない女性労働者への解雇を無効と定めています。ただし事業主が9条3項の事由による解雇でないことを証明したときは、この限りでないという例外が付いています。
夜勤のほかに、条文が用意している請求
夜勤の免除だけが選択肢ではありません。勤務そのものを軽くする請求が、65条3項に置かれています。
使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
(労働基準法65条3項。2026年9月5日に原文を取得して確認)
こちらは「妊娠中の女性」が対象で、産後は含まれません。66条3項が産後1年まで使えるのと範囲が違うため、混同しないでください。どの業務が「軽易」にあたるかを条文は定義していないので、実際には勤務先との話し合いになります。
健康診査を受ける時間についても定めがあります。均等法12条は、母子保健法の保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保できるようにしなければならないと事業主に義務づけています。13条1項は、その指導事項を守れるようにするため、勤務時間の変更や勤務の軽減など必要な措置を講じなければならないと定めています(いずれも2026年9月5日に原文を取得して確認)。
請求の様式について、64条の3から67条までは何も書いていない
様式・期限・回数のいずれについても、64条の3から67条までの条文は何も書いていません。編集部が照会した範囲はこの4つの条です。書面でなければ効かない、という決まりも見つかりませんでした。
とはいえ勤務表は先に組まれます。口頭で伝えた日付が残っていないと、あとから「聞いていない」の水掛け論になります。伝えた日と請求の内容は、メールなど記録の残る形にしておくほうがよい——と編集部は見ています。
伝える相手は、勤務表を作る人です。多くの病棟では師長がそれにあたります。人事や総務にだけ話しても、次の勤務表には反映されません。
請求が通らないとき、千葉県内の持ち込み先は条文で2つに分かれる
請求したのに夜勤に入れられ続けている場合、どこへ持ち込むかは根拠の条文で変わります。労働基準法の話は労働基準監督署、均等法の話は都道府県労働局長です。
都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
(均等法17条1項。2026年9月5日に原文を取得して確認)
同条2項は、11条2項を準用しています。準用によって、援助を求めたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁じられます。窓口へ持ち込んだこと自体を、不利益の理由にすることはできません。
千葉県内には、労働基準監督署が8署あります。千葉・船橋・柏・銚子・木更津・茂原・成田・東金の8つです(千葉労働局「管轄地域と所在地一覧」。2026年9月5日確認)。均等法側の窓口は、千葉労働局の雇用環境・均等室(千葉市中央区中央4-11-1 千葉第2地方合同庁舎)です。

8署の管轄は、二次医療圏の区分と対応していない
監督署の管轄には、思い違いしやすい点があります。管轄は市町村単位で定められており、県が医療の計画で使う9つの二次医療圏の区分とは一致しません。
例えば木更津労働基準監督署の管轄区域は「木更津市、君津市、富津市、袖ケ浦市、館山市、鴨川市、南房総市、安房郡(鋸南町)」です(千葉労働局・木更津労働基準監督署のページ。2026年9月5日確認)。医療の計画では君津圏域と安房圏域に分かれる地域が、労働行政では1つの署にまとまっています。安房圏域の病院に勤めているなら、持ち込み先は木更津です。
なお、この8という数は行政機関の数であり、当サイトの他の記事が扱う県内の病院数や病床数とは無関係の系列です。合計や割合を突き合わせないでください。
よくある質問
看護師が妊娠したら夜勤は免除してもらえますか?
**請求すれば免除されます。**労働基準法66条3項が、妊産婦が請求した場合に使用者は深夜業をさせてはならないと定めているためです。ただし請求が要件なので、妊娠を報告しただけでは制限は働きません。夜勤を外したい旨を、勤務表を作る人へはっきり伝えてください。
妊娠中の夜勤免除は、いつから使えますか?
**請求した時点からです。**条文は妊娠週数の区切りを設けていません。妊娠初期でも、請求すれば同じ規定が働きます。次の勤務表がすでに出ている場合でも、請求は勤務表の作成時期に縛られません。
看護師が妊娠したら、夜勤はいつまで続けるものですか?
**条文は「いつまで」を定めていません。**続けるかどうかを決めているのは、あなたが請求するかどうかです。上位の解説記事は妊娠週数を目安として挙げていますが、それは条文上の期限ではありません。体調の判断は産科の主治医の領分であり、本記事では扱いません。
妊娠中でも夜勤を続けたい場合はどうなりますか?
**請求は義務ではないため、続けることもできます。**66条3項は請求があったときに使用者を縛る規定であり、妊婦本人に夜勤をやめる義務を課すものではありません。いったん続けると決めたあとで、請求に切り替えることもできます。
夜勤の免除を申し出ても通らないときはどうすればいいですか?
**根拠の条文ごとに窓口が分かれます。**深夜業をさせられていること自体は労働基準法66条3項の問題で、持ち込み先は勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署です。請求を理由に配置や評価で不利益を受けた場合は均等法9条3項の問題になり、都道府県労働局長への援助の申出(同法17条1項)という経路があります。援助を求めたことを理由とする不利益取扱いも禁じられています(同法17条2項・11条2項)。
まとめ
- 夜勤を外す要件は請求したことです(労働基準法66条3項)。妊娠週数も診断書も、条文の要件ではありません
- 「妊産婦」は妊娠中の女性と産後1年を経過しない女性を指します(同法64条の3第1項の括弧書き)。産後の勤務表にも同じ請求が使えます
- 66条は3つの項に分かれ、変形労働時間制(1項)・時間外と休日(2項)・深夜業(3項)を別々に請求できます
- 請求したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止されています(均等法9条3項+同法施行規則2条の2第7号)。省令に夜勤の請求が名指しで書かれています
- 請求が通らないときの持ち込み先は、労働基準法なら労働基準監督署(千葉県内8署)、均等法なら千葉労働局の雇用環境・均等室です
**夜勤を外す判断を、体調が悪くなるまで待つ必要はありません。**条文は理由の説明も診断書も要件にしていないからです。待っている間に進むのは、次の勤務表だけです。
妊娠の経過と体調について、本記事は何も判断していません。そこは産科の主治医と、勤務先の産業医の領分です。条文の当てはめで迷う部分は、前の節に挙げた窓口が引き受けます。
請求は、あなたが口を開いた日から効き始めます。その日を、メールの送信日として残しておいてください。
参考・出典
- e-Gov法令検索 労働基準法(昭和22年法律第49号)66条1項・2項・3項(妊産婦の労働時間・時間外・深夜業の制限) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 (2026年9月5日に法令API v2
?elm=Mp-At_66で本文を取得して逐語照合) - 同 64条の3第1項(危険有害業務の就業制限。「妊産婦」の定義) 同上URL (2026年9月5日に
?elm=Mp-At_64_3で取得して逐語照合) - 同 65条1項・2項・3項(産前産後・軽易な業務への転換) 同上URL (2026年9月5日に
?elm=Mp-At_65で取得して逐語照合) - 同 119条柱書・1号(罰則。64条の3から67条までの違反を含む) 同上URL (2026年9月5日に
?elm=Mp-At_119で取得して逐語照合) - e-Gov法令検索 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)9条3項・4項/11条2項/12条/13条1項/17条1項・2項 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113 (2026年9月5日に法令API v2
?elm=Mp-At_9?elm=Mp-At_11?elm=Mp-At_12?elm=Mp-At_13?elm=Mp-At_17で取得して逐語照合) - e-Gov法令検索 同法施行規則(昭和61年労働省令第2号)2条の2第6号・第7号(法9条3項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由) https://laws.e-gov.go.jp/law/361M50002000002 (2026年9月5日に法令API v2
?elm=Mp-At_2_2で取得して逐語照合) - 厚生労働省千葉労働局「管轄地域と所在地一覧・監督署からのお知らせ」(県内の労働基準監督署8署) https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/kantoku/kantokusyo.html (2026年9月5日確認)
- 厚生労働省千葉労働局「木更津労働基準監督署」(管轄区域) https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/kantoku/kantokusyo/kantokusyo06.html (2026年9月5日確認)
- 厚生労働省千葉労働局「雇用環境・均等室」(所在地・取扱業務) https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/roudoukyoku/gyoumu_naiyou/kintou.html (2026年9月5日確認)
